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八重山熱と戦争マラリアの地を訪ねて

秘境としての西表島  東京から約2,000km、日本の最南西端、沖縄県・八重山列島に属する西表島は、北緯24°、東経123°の東シナ海上に浮かぶ島である。年間の日平均気温は23.7℃、平均降水量は2,304.9mmの亜熱帯に属する。島の面積は、沖縄本島につぎ、県で2番目(289.61km 2 )の大きさを誇るが、島の約90%は亜熱帯の原生林に覆われている。そのため、サンゴ礁の海岸に向かい山岳林から平地林、海岸林と連続したバイオームを見ることができる(図1)。また、島の中央には469.5mの古見岳をはじめ400m級の山々が連なるため、その山々を水源とする多くの河川が存在し、河口付近には広大なマングローブ林がみられる。  西表島を含む南西諸島の島々は太古の昔、ユーラシア大陸や本州と陸続きあるいは孤立、水没を繰り返してきた。西表島は、その間も完全に海に没しなかったために大陸から渡ってきた生物が島に取り残され、独自の進化を遂げることができた。その結果、イリオモテヤマネコをはじめ、独特の生物相(遺存種・固有種)の形成・現存を可能にしたと考えられている。1972年には西表島の全域および近隣の島々を含めたサンゴ礁海域が「西表石垣国立公園」に指定されている。近年では、これらの地域全体を世界自然遺産とする動きも活発になってきている。そのような動きの中で、自然環境を対象とした「エコツアー」が人気を博し、観光客も年々増加している。  西表島が今日のように、手付かずの原生林が多く残された背景には、この地でかつて猖獗を極めた風土病「 八重山熱 」が深く関係している。 図1. 古見岳の山腹にあるユチンの滝からの眺望 八重山熱(ヤキー)とは  かつて、西表島を中心に八重山列島では山野・沼地の湿気に触れたり、河川の水を飲むことで「八重山熱」・「風気(瘴癘)」という風土病に罹患することが一部で知られていた。この病は、体を焼き尽くす高熱が出て内臓が侵される事から、島民の間では「エーマ(=八重山)・ヤキー(=焼き)」とよばれていた。  八重山熱の病名について初めて公に言及し、八重山列島が注目されるきっかけとなるのが、1882[明治15]年、田代安定(鹿児島県御用係・農商務省御用係兼務)によりまとめられた「沖縄県下先島回覧意見書」とされる。 この意見書は、田代が農商務省か